第4章 迷夢…
客の出入りも激しくなって、どうにも落ち着かなくなった僕達は、店の二階にある二宮君の自室へと場所を移した。
僕の部屋の半分にも満たない狭い部屋には、所狭しと本が積み上げられていて、僕はその一冊を手に取ると、パラパラと頁を捲った。
「へぇ、二宮君てこんなの読むんだね」
積み上げられた本はどれも、所謂”純文学“と呼ばれる物ばかりで、僕は量もさることながら、その意外性に驚きの声を上げた。
「まあな。実はさ、俺将来は作家になりたいと思ってんだ」
「そうなんだ…? 凄いじゃないか、夢があるなんて」
僕なんて、夢を見る権利すら与えて貰えないのに…
櫻井の家に産まれた時から僕の人生はもう決められていて、父様に言われるがままの道を歩くことしか、僕には出来ないから…
「俺ん家こんな仕事してるだろ? お陰で餓鬼の頃なんて友達の一人もいなくてな…。本を読むことだけが、俺の唯一の楽しみだったんだ。それで俺もいつかは…、なんて思うようになってな。ま、そんな簡単な事じゃないとは思うけど」
時折苦笑しながらも、それでも夢を語る二宮君のことが、僕は少しだけ羨ましく思えて…
同時に、夢を語ることすら許されない自分自身を惨めに感じる。
どんなに裕福であっても、どんなに優雅な生活をしていても、僕には何も無いんだ。
ただ一つ、智子を愛する権利すら、僕には…