第13章 特別編「偏愛…」
ぱっと瞼を開くと、視界が真っ白な世界に覆われていて…
その眩しさに僕は手を翳した。
ここは…、どこだ…?
焦点の定まらない視界に目を凝らし、辺りを見回すと、見知った顔が酷く憔悴した様子で僕を見ていて…
「に…のみ…や…か?」
声を出そうにも、からからに乾いた喉からは、掠れた声しか出せない。
それでも僕の声はどうにか届いたようで…
元々細い面立ちを、更に痩せこけさせた二宮が、その顔を悲しげに歪めた。
そして、
「この大馬鹿野郎が…、心配させやがって…」
それだけを言うと、唇をきつく噛み締めた。
その瞬間、僕は自分が死ねなかったことを悟った。
そして、自分が今いる場所が、病院なのだということも…
「そう言えば、智子…は?」
僕が言うと、二宮は訝しげに顔をしかめた。
「え…? お前…、智子さんはもう二月(ふたつき)も前に死んだだろうが…」
「いや、そんな筈は…」
だって、つい数分前まで、僕は智子と一緒にいたのに…
「お前、夢でも見てたんじゃないのか?」
夢…か…
それにしては、やけに生々しかったような気がするんだが…
でも確かにそうだ。
二宮の言う通り、智子はもうこの世の人ではない。
その智子に会ったと言うなら、それは僕もあの世にいることになるが、こうして目の前に二宮がいるってことは、やはり僕が見たのは夢か、それとも僕の智子への強い想いが見せた幻だったのかもしれない。