第13章 特別編「偏愛…」
「嘘でも嬉しい…」
声にすることも出来ず、智翔の唇が動いた。
そして再び智翔の瞼は閉じてしまった。
僕は智翔の意識をどうにか繋ぎ止めようと、
「嘘なんかであるもんか…。今世では無理でも、来世では必ず…、だからお願いだ…、目を開けておくれ…」
お願いだから…
もう一度笑顔を見せておくれ…
「智…翔…、智翔…、嫌だ…、うぁぁぁっ…!」
僕は声が枯れる程に絶叫し、それまても途切れがちだった意識の糸を、自ら断ち切った。
智翔の声が聞けないのなら…
智翔の笑顔が見れないのなら::…
智翔と共にいられないのなら、僕はもう生きている意味が無いと…、そう思った。
尤も、一度ならずも二度までも禁忌を冒した僕に、この先の人生を生きて行く資格など無いのだけれど…
「兄さま…」
智…子、か…?
「ええ、そうよ、智子よ…」
どうして智子がここ…に?
「ふふ、兄さまが私を呼んだのよ? おかしな兄さまね」
僕…が、智子を…?
ああ、そうか…
僕が最期に智子に会いたいと願ったから…、だから…
智子、すまない…、僕は智翔を救うことが出来なかった…
僕の手の中で冷たくなって行く指先に、再び体温を取り戻してやることが出来なかった。
僕は…、最低な父親だ…