第13章 特別編「偏愛…」
でも智翔は首を横に振り続けるばかりで…
それどころか、僕が見ている目の前で、ペーパーナイフを自分の胸に向け構えている。
「駄目だ…、よすんだ…、良い子だから…、それを…」
「嫌よ…。お父さんを殺して私も死ぬの…」
「どう…して…」
「だって、そうでもしないとお父さんは私の物にはならないもの…」
違う…!
死んだって何も変わりやしないのに…
僕達はどこまで行っても、血を分けた親子には違いないし、たった二人残った家族なのに…
僕は偽ることなく智翔を愛しているのに、どうしてそんな哀しいことを…
「お父さんは私を愛してると言ったわ…。でもそれは、私の中にお母さんの姿を見ていたからなのよ…」
どういう…ことだ…
僕が、智翔に智子の姿を重ねていたと…、そう言いたいのか?
「現に、お父さんは覚えていないかもしれないけれど、私を抱きながら、何度も何度もお母さんの名前を呼んだわ…」
嘘だ…、そんなことは決して…
“無い”と断言出来たのなら、もしかしたら智翔の心は救われたのかもしれない。
でも出来なかった。
気付いてしまったから…
智子のドレスを纏い、智子が好きだった青い繻子(しゅす)を髪に飾った智翔に、僕は何度智子の若かりし頃の姿を重ねただろうと…
僕は智翔を愛していると言いながら、心の中ではやはり智子を求めていたのだと…
気付いてしまったから…