第13章 特別編「偏愛…」
「愛している…」と…
たとえ禁忌を冒しても、それでも僕は智翔を愛していると…
娘などではなく、ただ一人の”女性”として、僕は智翔を愛していると…
でも僕の声は智翔に届くことはなかった。
いや、厳密に言えば、僕の言葉は“声”になることはなかった、なのかもしれない。
脇腹に強い衝撃を感じたかと思うと、次第に熱を帯び始め、次第にその熱はまるで灼熱と化し、やがて身を裂くような痛みへと変わった。
「智…翔…、ど…して…」
息が詰まって、呼吸さえままならなかった。
僕は崩れるようにその場に両膝を着いた。
そして、その時になって漸く、自分の手の中にあった筈のペーパーナイフが無いことに気付いた。
まさか一瞬動揺した隙を見て…?
なんと言うことだ…
僕は、時が経つ毎に激しさを増す痛みを堪えながら、智翔を振り返った。
「智…翔…、それを…寄越すんだ…」
「嫌よ…」
「智翔…!」
智翔は、血に濡れたペーパーナイフを両手に握り、朦朧とする意識の中、徐々に霞み行く視界でも分かるくらいに、身体を震わせていた。
「お父さんを殺して私も死ぬの…」
「馬鹿なことを言う…な…、良いから…それをこちらに…」
息が出来ない…
苦しい…
身体が燃えるように熱い…
それでも僕は、残る力全てを振り絞って、智翔に向かって手を伸ばし続けた。