第13章 特別編「偏愛…」
一瞬、自分の身に何が起きているのか、全く分からなかった。
そう、例えるなら夢でも見ているような感覚だった。
ただ、夢にしては生々し過ぎる感触と、肌を撫でる風の冷たさだけが、それが現実であることを伝えていた。
ハッと我に返った僕は、渾身の…とまではいかなくとも、力づくで首に回りかけた智翔の手を振り払った。
「やめないか…、はしたない…」
「はしたない…? どうして? お父さんだって私とこうしたかったんでしょ? だから私にあんなことを…」
「それは…。と、とにかく、二宮だっているんだ、そう言う下品な真似は…」
ちらりと視線を二宮に向けると、二宮は気まずそうに顔を逸らしたまま、静かに僕達と距離を取った。
そう初心な男ではないが、やはり娘同然の智翔の浅ましい姿を見るのは、忍びないんだと思う。
勿論、僕自身も親友とも言える二宮の前で醜態を晒すのは、流石に気まずい。
尤も、今更自尊心がどうのと言える立場でもないが…
僕は二宮が背中を向けたのを機に、視線を智翔に戻した。
すると智翔はくすくすと小さな肩を揺らし、触れたら折れてしまいそうな細い手首に、きらりと光る物を宛がっていた。
「何をしている、馬鹿な真似はやめないか!」
普段滅多に荒げることのない声に、智翔の小さく揺れていた肩をがぴくりと跳ね、智翔の手から光る物が滑り落ちた。