第13章 特別編「偏愛…」
「嘘よ…」
「嘘なものか…、僕にとって君は智子が唯一残してくれた宝とも言うべき存在なのに…」
だから大事に大事に…
裕福な暮らしこそ出来なかったが、それでも出来得る限り手塩に掛けて育ててきたつもりだ。
僕は父親として…いや、男として持てる愛情は全て注いできたつもりだ。
勿論、今の僕にそれを言う資格はないのだけれど…
「そうね…、お父さんは私のことを愛してくれたわ…」
「だったらどうして…」
噓だなんて…
「私ね、いつの頃だったかしら…、気付いてしまったの…」
「何…を…」
智翔が何を言おうとしているのか、それを聞くのが何故だか怖くて、僕の喉が奇妙な音を鳴らした。
そして、
「お父さんが、私を娘としてではなく、”女”として見ていることに、私気付いてしまったの」
智翔の細い指が僕の頬に触れた瞬間、自分では立っていられない程の眩暈を感じた僕は、その場にガクリと膝を着いた。
知られていた…
ひた隠しにしてきたつもりの邪な想いを、智翔は気付いていた…
その事実に、僕は悪い夢であって欲しいと心の奥底で願いながら、頭を抱え込んだ。
なのに智翔は、そんな僕に更に追い討ちをかけるかのように、赤く染めた唇を寄せると、幼くたどたどしい仕草で、僕の唇に自分のそれを重ねた。