第13章 特別編「偏愛…」
智翔の足元に落ちたのは、刃先こそ鋭くはないが、持ち手の部分に細かな細工が施されていて…
よく見ると、青く光る小さな石が埋め込まれている。
見覚えのある物だった。
何故なら、僕も同じ物を持っているから…
あれはいつの頃だったか、父様が貿易の仕事で渡航した際に、僕と智子に一つずつ、土産としてくれた物で、僕の物には赤い石が埋め込まれている。
母様は子供に刃物なんて…、と渋い顔をしていたが、僕と智子はとても喜んでいたし、とりわけ綺麗な物や可愛らしい物を良く好んだ智子は、初めて目にする舶来品の細工の美しさに、目だけでなく心まで奪われているようだった。
僕達は父様からの贈り物を、とても大切にしていた。
それは、父様と智子の関係を知った後でも変わることはなく、僕と智子が終の棲家にと村に居を構えた時にも、常に桐箱の中に大切に仕舞ってあった筈だ。
いつか、智翔が僕達の手を離れる時が来たら、その時に智翔に渡そうと、二人で決めて…
それがどうして智翔の手に…?
「どうしてこれを…?」
僕が聞くと、智翔は一瞬顔を強張らせると、微かに唇を震わせ、
「お母さんが憎かったのよ」と、ともすれば風に掻き消されてしまうような声で言って、両手で顔を覆った。