第13章 特別編「偏愛…」
どれくらいの時間が過ぎただろう…
真っ白なドレスの裾を揺らし立ち上がった智翔が、ゆっくりと僕達の方を振り返った。
瞬間、僕は言葉も出せない程の驚きに、膝から崩れそうになった。
智子が気に入ってよく着ていたドレスを身に纏った智翔の姿が、まるで智子が生き返ったかのように生き写しだったから…
智子が腹を痛めて産んだ子なのだから、当然といえば当然のことなんだろうが、髪の色さえ除けば瓜二つと言う言葉では足りない程、二人は似ている。
「智子…」
智子は死んだんだと…
智子はもういないんだと…
頭では分かっていながらも、口をついて出た言葉に自分自身愕然とする。
それは目の前にいる智翔も同じで…
幾分か取り戻したとは言え、未だ蒼白い顔を悲しげに歪ませると、頬の色とは到底不釣り合いな赤い唇を僅かに動かした。
「お父さんはいつもそう…」と、ともすれば風に掻き消されてしまいそうな、小さな声で…
「お父さんは、いつだってお母さんのことばかり…」
「智…翔…?」
「お父さんが愛しているのは、お母さんだけ…。お父さんは私のことなんて愛してないの…」
「な、何を言っているんだ…、僕は…」
智翔のことだって、智子と同じように愛している。
いや、もしかしたらそれ以上に…