第13章 特別編「偏愛…」
智子の墓石は、櫻井家代々の墓のすぐ隣に、そっと寄り添うように立てられている。
智子は自身の死を悟った直後、自分が死んだら遺骨は母様と同じ場所に埋葬して欲しいと言った。
でも僕はそれを拒んだ。
智子が母様の傍にいたいという気持ちは分からなくもなかったが、僕は父様と同じ場所に智子を眠らせるわけにはいかないと思ったからだ。
やっとの思いで父様からの呪縛から逃れたというのに、あの世に行ってまで父様の、執拗なまでの歪な愛情に縛られるのは、智子があまりにも不憫で堪らなかった。
智子は僕の願いを受け入れてくれた。
そして死期の迫った身体で、自ら墓石を選び、建てた場所が櫻井家代々の墓のすぐ隣だった。
ただ、実際にはそこに智子の遺骨が埋葬されているわけではない。
亡くなって日が浅いことも理由の一つではあるが、僕自身が智子と離れたくないというのが正直なところだ。
だから智子の遺骨は、まだ僕達が長年肩寄せ合って暮らした、あの家にある。
なのに何故智翔がこの場所を選んだのか…、理由は僕にも分からない。
ただ、僕達が駆け付けた時、智翔は智子の墓石を前に、静かに涙を流していた。
そう…、声をかけるのも躊躇われる程、静かに…