第13章 特別編「偏愛…」
智翔はここにいる。
失くした筈の腕の痛みに、そう確信した僕は、きっと奥歯を噛み締めると、今にも棒ななってしまいそうな足を鼓舞して、数段先で僕を見下ろしていた二宮を追い越し、石階段を駆け上がった。
「おい待て…」
二宮が驚いたように声を上げたが、それすらも俺の耳には届かなかった。
俺は一息に山門まで石階段を駆け上がると、真っ直ぐに仏殿へと伸びる敷石には目もくれず、墓所へと続く竹林へと足を向けた。
これまでどんな事があろうと、本尊へ手を合わせることを欠かしたことなどなかったのに…
それくらい、気持ちが急いていた。
相変わらず腕の痛みは続いていた。
寧ろ、墓所が近付くにつれて、痛みは強くなる一方で…
「おい、大丈夫か」
いつの間にか追い付いて来ていた二宮の肩を借りなければ、足を前に進めることすら難しい程だった。
「少し休んだらどうだ?」
額に脂汗を滲ませる僕を案じたのか、二宮が提案するが、僕はそれを拒んだ。
休んでいる暇などなかった。
「急がないと…」
この先に、必ず智翔はいる。
唯一、同じ痛みを分かち合える筈だった智子の墓前に、智翔は必ず…
どこにも確証なんてなかった。
ただ、失くした筈の腕の痛みだけが、僕にそう訴えかけていた。
智翔を止めろ、と…