第13章 特別編「偏愛…」
長く伸びる石階段を、まるで転げるように駆け登る。
この所ろくに食べ物を口にしていなかったのに加え、昨晩の出来事が体力の落ちた身体に酷く影響しているのか、中腹まで登った所で身体が悲鳴を上げ出す。
勿論うだるような暑さのせいもあるんだろうが、喉は乾くし、玉のような汗が全身から吹き出すし、息だって荒くなって、おまけに吐き気までする。
それでも足を止めなかったのは、そこに智翔がいると信じているからだ。
「おい、大丈夫か、櫻井」
数段先を行く二宮が僕を振り返る。
僕は額の汗を拭いながら、
「ああ、何とかな…」とだけ返すと、ふっと息を吐き出し、再び頂上を目指した。
心の内では、如何にも体力の無さそうな二宮に安じられることを情けなく思いながら…
そうして漸く山門を視界に捉えた時、
「痛っ…!」
突然失った筈の右腕が火が付いたかの様に熱くなり、脈打ちながら痛み始めた。
「どうした、痛むのか?」
足を止め、苦悶の表情を浮かべる僕に、二宮が駆け寄って来る。
「分からない…」
「分からないって、どういう事だ?」
問われたところで、その問に返すだけの明確な答えを、残念なことに僕は持ち合わせてない。
ただ、こんなことは以前にも何度かあった。
あれは確か…、そうだ、智子が息を引き取る間際にも、同じように右腕が酷く痛んだ事があった。
もしかして智子が…?