第13章 特別編「偏愛…」
二宮は鼻息を荒くしたまま、僕の襟を掴んで僕を引き起こすと、鼻先がぶつかる程近く顏を寄せ、忌々し気に舌打ちをした。
一見、何事にも適当で、他人に興味などなさそうに見える二宮だが、実際の性格はそうではない。
誰もが見過ごしがちな僅かな心の機微を敏感に感じ取る…、興味がないなどとはとても思えない、義理人情に厚い男だ。
だから、自ら命を絶つことで、全ての罪から逃れようとした僕を、二宮が怒るのも無理はない。
ただどうやら理由はそれだけではないようで…
「智翔が…どうしたって…?」
僕は二宮が言いかけて止めてしまった言葉の続きが気になった。
「あ、ああ、そうだ…、智翔はここには来ていないな?」
「智翔が…、ここに…? いや…?」
「そうか…、そうだよな…」
そう言ったきり、両腕を組み険しい表情をする二宮に、僕は一抹の不安を感じた。
「おい、何があった…」
ざわつき始めた心中とは裏腹に、僕は至って冷静に問いかけた。
すると二宮は小さく息を吐き出してから、
「いなくなったんだ…。朝、看護婦が検温に行くと、智翔がいなくなってたそうなんだ」
「えっ…? どういう事だ…」
身体は随分と回復していると医師からは聞いていたが、それでも外出出来る程、体力は戻っていないと…
なのに何故…