第13章 特別編「偏愛…」
どれくらいの時間が経ったのだろう…
襖を開け放った縁側から朝日が射し込み、僕は眩しさに目を細めた。
身体は全くと言って良い程動かない。
僕は畳の上に身体を投げ出したまま、腕だけを持ち上げ、日差しを遮った。
その時、
「おい、いるか、櫻井っ!」
切羽詰まったような二宮の声が聞こえて、僕は顔だけを土間の方に向けた。
こんな朝早くに何事だ、と…
言いたいのに、喉が引き攣ったように痛んで、上手く声に出来ない。
僕は仕方なく重い身体を無理矢理起こすと、這うようにして二宮の声がした方へのと向かった。
「あ、櫻井いたか…」
二宮は僕を見るなり、額に浮かんだ汗を腰に引っ掛けた手拭いで拭い、息を整えた。
「実は智翔が…」
「智翔…が…、どう…した…」
掠れた声で、絞り出すように言う僕を、二宮が訝しげに見つめる。
そして、
「櫻井…、お前…!」
鴨居から無様に垂れ下がる帯締めを見付けた瞬間、僕に馬乗りになって着物の襟を掴んだ。
「馬鹿野郎…、こんな時に、お前って奴は…」
二宮が拳を振り上げる。
僕は静かに瞼を閉じ、二宮の拳が僕の頬を打つのを待った。
殴られても仕方ないと思っていたから…
でもいつまで経っても、二宮の拳が僕に打ち付けられることは、とうとう無かった。