第13章 特別編「偏愛…」
僕は、ただ一人の娘である智翔を愛しただけでも許されることではないのに、その上智翔が唯一自分が女性であることを認められた存在である腹の子を殺した。
こんな僕に、父親である資格も、ましてや男である資格などない。
おそらく智翔が僕を許すことは、この先二度とないだろう。
ならばいっそのこと、死んでしまおうか…
僕さえこの世から消えてなくなれば、智翔はこれ以上苦しまないで済む。
僕は、箪笥から智子が愛用していた薄桃色の帯締めを取り出すと、それを鴨居にかけると、片手ではどうにもならず、口も使って括り付けた。
ちゃぶ台を括り付けた帯締めの下まで引き寄せ、それを足場に輪にした帯締めに首をかけた。
「こんな夫で済まない…」
答えなど返って来ないことを知りつつ、智子の遺影に向かって語り掛け、足場にしたちゃぶ台を勢い良く蹴った。
瞬間、
「ぐっ…、ぐぇっ…」
それまで緩くかかっていただけの帯締めが、僕の体重がかかったことで僕の喉元をきつく締め付け…
あまりの苦しさに、僕は喉元を掻き毟り、足をばたつかせた。
苦しくて、苦しくて…、僕は必死で藻掻いた。
それが良かったのか、良くなかったのか…
きつく縛った筈の帯締めが解け、僕は畳の上に落とされた。
「ぐっ…、げほっ…、」
畳の上に叩き落とされる格好になった僕は、激しく咳き込み、もう何も吐き出す物なんて残ってはいない筈なのに、再び激しく嘔吐した。
自ら命を断つことすら、僕には許されないのか…!
僕は悔しさのあまり、拳を畳に叩きつけた。
何度も…、何度も、繰り返し…