第13章 特別編「偏愛…」
智翔が目を覚ましたのは、あの日から数えて丁度一月が過ぎた頃だった。
智翔は僕を見るなり、かなしそうに瞼を伏せ、静かに涙を零した。
その涙を見て僕は、智翔も僕と同じ…、目覚めることを望んでいなかったことを悟った。
当然だ…
漸く掴んだ女性としての喜びを、最も卑劣な形で奪われたのだから、智翔が永遠に目覚めたくないと願ったのは当然のことかもしれない。
僕は微かに震える智翔の手を握った。
でもその手は呆気ない程簡単に僕の手を擦り抜けて行ってしまう。
「智翔…、済まなかった…」
謝って許されることではないと分かっていた。
感情のままに智翔の身だけではなく、心まで傷付けた僕を、智翔が許す筈などないと…
それでも僕には頭を下げ続けることしか出来なくて…
「智翔が苦しんでいたとも知らず、僕は…」
「いいのよ…、私…、これで良かったと思ってるから…」
「えっ…?」
「だってそうでしょ? もしお腹の赤ちゃんが、お母さんや私みたいに、化け物のような身体で産まれたら…、そんなの悲しすぎるもの…。だからこれで良かったの」
化け物…
智翔の放ったその一言が、僕の胸に深く…深く突き刺さり、身を割くような痛みが全身に広がった。