第13章 特別編「偏愛…」
病室に運ばれ、寝台に横たわる智翔の青白い顔を見下ろしていると、自然と涙が溢れた。
「俺は一旦戻るが、櫻井…お前一人で大丈夫か?」
「ああ…、僕は大丈夫だ」
智翔が受けた痛みに比べたら、僕の苦しみなんて、比べるに値しない。
「そうか…。じゃあ…、明日また来るから、着替えとか必要な物があれば連絡くれ」
「分かった。済まなかったな、君にまで迷惑をかけてしまって…」
僕は智翔に視線を向けたまま、二宮に向かって謝罪の言葉を口にした。
「いいや、俺のことなら気にするな。今は一刻も早く智翔の意識が戻ることだけを願え」
「そうさせて貰うよ…」
病室を出て行こうとする二宮に言うけど、内心ではそうじゃない。
出来ることなら、このまま永遠に目を覚まさないで欲しい…
そうすれば僕は智翔に憎まれずに済む。
だからどうかこのまま…
僕は力なく投げ出された智翔の白くて小さな手を握った。
この期に及んでまだ自身の保身ばかりを願う己の身勝手さを呪いながら…
それから一週間が過ぎても、智翔の意識は一向に戻ることはなかった。
医師の見立てでは、翌日には目を覚ますだろうと言われていたのに、だ。
僕は心のどこかで安堵していたのかもしれない。
智翔はこのまま目を覚ますことはないのだと…