第13章 特別編「偏愛…」
「智子さんには智翔の気持ちが痛い程分かったんだろうな…」
愕然とする僕を見下ろし、二宮は小さく息を吐き出した。
「松本先生がまだ智子さんを愛してることを知りながら、智翔に女としての幸せを与えてやってくれないか、って…頼んだそうだよ」
女としての幸せ…
それが何を意味するのか、男の僕にだって容易に想像はつく。
女性として産まれたのであれば、誰しもが当たり前に望む幸せを、女性として愛される喜びを、智子は智翔に感じて欲しかったんだと思う。
での相手に智子が選んだのが、潤だった…と?
「潤は智子の頼みを受け入れたのか?」
「いいや、最初は断ったそうだよ」
当然だ。
いくら智子の娘だからと言っても、智翔は智子ではない。
未だ智子への未練が断ち切れずにいる潤が、智翔を抱くなんて…、仮に僕がその立場であったら、出来る事じゃない。
「でもな、断った後でふと思ったそうだよ…」
何…を…?
「智翔の願いを叶えてやれるのは、全てを知っても尚、智子さんを愛し通せる自分しかいない、ってな…」
「あ…」
確かに、智子の身体の秘密を知った時、正直僕は戸惑った。
女でも、ましてや男でもない身体を、僕は愛すことが出来るんだろうかと…
でも潤は一切躊躇うことなく、ありのままの智子を受け入れようとした。
智子はそれを知っているから、だから潤に…