第13章 特別編「偏愛…」
目の前が真っ暗になって、足元がぐにゃりと揺れたような感覚に襲われた僕は、それでも尚語り続ける二宮の声を、意識のどこか遠くの方で聞いていた。
智子は、僕が智翔に親が子に持つ以上の感情を抱いていることに気付いていた、その上で、智子は二宮に智翔託した、と…?
そういうことなのか…?
「それからもう一つ…」
もうこれ以上何も聞きたくない、そう思っていた。
でも僕には全ての音を遮断することすら出来ないんだと、片耳を塞いだ所で気付かされる。
「智翔を松本先生に託したのは、他でもない智子さんだ」
「智子が…? どうして…」
僕が智翔に邪な感情を抱いていることに気付いていた智子なら、当然僕が長いこと潤を憎んでいることだって知っていた筈だ。
なのに何故潤に智翔を…?
「智翔な、お前は知らないかもしれないが、死のうとしたことがあるんだ」
「え…?」
「自分の身体が人と違うことを知って、自分は誰からも愛される資格がないんだ、って…」
「そんな…」
かつての智子がそうであったように、智翔もいつか自分の持つ性に思い悩む時が来るであろうことは分かっていた。
でもまさか自ら命を絶とうとするまでに苦悩しているとは、ずっと傍にいた筈なのに僕自身今の今まで気付きもしなかった。
智翔が人に愛される資格がないのだとしたら、僕は智翔の父親である資格がないも同然じゃないか。