第13章 特別編「偏愛…」
暫くすると、恐らくは看護師に叩き起されたんだろう、見知った顔の医師が治療室に駆け込んで来た。
医師は診察台に横たわる智翔を見るなり、血相わ変えて僕達をその場から追いやった。
「智翔の身にもしものことがあったら…」
「落ち着け…、な、櫻井?」
「二宮、僕はどうしたら…」
「いいから落ち着けって!」
僕は二宮に背中を支えられながら、明かりの消えた深夜の待合所の椅子に腰を下ろすと、ずっと震えの止まらない手で顔を覆った。
「一体何があったんだ?」
二宮の手が僕の肩に触れる。
僕はその手を振り払うことも出来ず、顔を覆ったままで首を横に振った。
「どうかしてたんだ…」
そうだ、あの時間の僕は、まるで何かに取り憑かれたかのように、正常な判断すら出来ず、ただ突き動かされるままに、智翔の華奢な身体を開いた。
「僕は何てことを…」
ずっと目の中に入れても痛く無いほどに大切に、慈しんで育てて来た娘を、僕は最も卑劣な行為で傷付けた。
そう…、僕に初めて殺意と言う感情を覚えさせた父様と同じように、僕は智翔を…
「殺してくれ…」
「櫻井…?」
「僕を殺してくれないか、二宮…」
獣の血を濃く受けた僕など、生きていてはああけないんだ、と…そう思った。