第13章 特別編「偏愛…」
二宮の運転する自動車で、智子が生前世話になった病院に向かった僕達は、夜も更け、すっかり門灯も消えた病院の扉を叩いた。
「誰か…、誰かいませんか!!」
気がせいているせいか、からからに乾いて引き攣れた喉で、声を張り上げた。
すると、カーテンを引いた向こう側に微かな明かりが灯り、欠伸を噛み殺したような声が聞こえた。
「夜分にすみません、診ていただけないでしょうか…」
錠を外し、開いた戸の隙間から顔を出したのは、見覚えのある看護婦で…
転寝でもしていたんだろうか…、瞼を擦っている。
「あ、あの、先生は…」
「どうされました?」
「娘が…、智翔が…」
説明なんて出来なかった。
僕は布団に包んだ智翔を抱く二宮を振り返った。
智翔を包んだ布団は、智翔の流した血で赤黒く染まっている。
僕の視線を追うよにして智翔に目を向けた看護婦は、一瞬で表情を凍り付かせると、
「早く中へ…、今先生をお呼びしますから…」
人一人が通るのがやっとだった戸を全開にし、僕達を院内へと促した。
そして、
「こちらへ…」
処置室の寝台に智翔を横たえたのを確認すると、慌てた様子で処置室を出て行った。
「智翔…」
すっかり血の気を失くした智翔の手を握り、僕は心の底から願った。
智子…、どうか智翔を助けてくれ、と…