第13章 特別編「偏愛…」
初めて見る表情だった。
多少の離れていた時間があったとしても、十数年育てて来て、これ程までに憎悪と嫌悪に満ちた智翔の顔を見たのは、初めてのことだった。
「智翔、僕は何も腹の子の父親がどうこう言ってるわけじゃないんだ。僕はただ…」
「“ただ”何なの? 私知ってるのよ? お父さんが潤おじ様のことを憎んでらしたこと…」
「智翔、それは…」
違う…と、今の僕に否定することは出来るのだろうか。
現に僕は潤をずっと憎んで来た。
婚約者という立場を利用して智子の唇を奪い、当時兄である僕ですら知りえなかった智子の秘密を知り、智子の身体に初めて触れた潤を、僕はずっと許せずにいた。
そして今、僕が命よりも大切にしている娘の智翔に…
どうして憎まずにいられようか…
僕達の…、僕の娘なのに…
僕の智翔なのに!
僕は愛おし気に腹を撫でる智翔の細い手首を掴むと、勢いに任せるままに、智翔の手首を畳に抑え付けた。
「お父さん…、何をなさるの? 痛いわ、離して…」
覆い被さる格好になった僕の下で、智翔の足が畳を蹴ってその場から逃れようとするから、スカートの裾が捲れ上がり、白い太腿が露わになる。
「智翔…、僕の智翔…」
ずっと…
そう…、この世に智翔が産まれてから、ずっと抱き続け、押さえ付けて来た筈の感情が、僕の中で目を覚ます瞬間だった。