第13章 特別編「偏愛…」
「いいかい、良くお聞き?」
僕はふっと息を吐き出し、膝の上にきゅっと結んだ智翔の手を包んだ。
「智翔はまだ若い。こんなことで人生を無駄にする必要はないんじゃないか?」
若い僕達がして来たような苦労を、愛する娘には…智翔には、味わって欲しくはない。
「今ならまだ間に合う。だから…」
このまま時間だけが無駄に過ぎて行けば、智翔の腹に宿った赤ん坊は益々大きくなり、そのうち見た目にだって…
そうなってからでは、堕胎が出来なくなる可能性だって出て来るし、仮に無事処理出来たとしても、智翔が心身に受ける負担は増すばかりだ。
どうか腹の子だけは…、潤との間に出来た子だけは、諦めてくれないか…
僕は強い願いを込め、智翔の手を包んだ手に力を込めた。
「私、この子を産みたいの」
「智翔!」
声を荒らげる僕の前で、智翔が小さな肩をびくんと震わせる。
「どうして? お母さんが私を産んだのは、十七になったばかりの頃でしょ? 私はもう十八になるのに、どうしてなの? 潤おじ様がこの子の父親だから?」
「それ…は…」
「だから、そこまで頑なに反対なさるの?」
図星を指され、つい口篭ってしまう僕の手を、智翔が乱暴に振り払った。