第13章 特別編「偏愛…」
「お父さん…? どうかなさったの?」
智翔を前に、放心したようになってしまった僕を、背けた筈の顔が覗き込む。
その時になって漸く我に返った僕は、手にしていた封筒を智翔の前に差し出した。
「これは…何なの?」
「これを持って、ここに書いてある住所を訪ねなさい」
言いながら僕は、封筒に一片の紙を添えた。
「どなた…なの? 私の知ってる方なのかしら?」
「いや、智翔の知らない人だよ」
「どうして私が?」
智翔が疑問に思うのも当然かもしれない。
僕がその人を知ったのは、智子が病に倒れてからの事なのだから…
「智翔、その方はね、この辺りでは数少ない婦人病の権威で、智翔のことをその方にお願いしようと思ってね」 」
一瞬、智翔の表情が強ばったのを、僕は見逃さなかった。
智翔は小さな頃から感の鋭い子だったから、その一言で僕が何を意図しているのかを感じ取ったんだろう。
「嫌よ…、私行かない…」
「どうして…。一度ちゃんと調べて貰った方が…」
勿論、僕が意図するのはそれだけではないのだけれど…
「検査なら潤おじ様にして貰ったわ。なのに何故見ず知らずのお医者様に…? 私、嫌…」
無理もない。
普通ではないことを自覚している智翔だから、見知らぬ男の前で身体を開くことなど、考えたくも無いことだろう。