第13章 特別編「偏愛…」
それから数日が経った頃、僕は智翔を僕の部屋に呼んだ。
「お父さん…?」
文机に向かったままの僕の背中に、智翔の怪訝そうな声がかかる。
「暫く待っていなさい」
僕は智翔に言いおき、手にしていた筆を置き、机の上に広げた便箋を、不器用な手つきながら折り、息を武器を込んだ封筒に入れると、しっかりと糊付けをし、封を閉じた。
そして、ゆっくりと身体の向きを変えた僕は、俯きがちな智翔の頬に手を触れた。
「随分と顔色が悪いようだね」
「そう…かしら…」
智翔は僕の手をやんわりと振り払うと、たったの数日間ですっかり痩せこけてしまった顔を背けた。
実際、智翔の顔をまとに見たのは、帰省して来た時以来のことで、僕はその変貌ぶりに正直驚きはしたが、理由は分かっているからそれ以上は追求しない事にした。
「それより、何のご用かしら…」
そう言った智翔の声にも、まるで覇気が感じられず、そこにそうして座っているのがやっとのようにも見えた。
なのにどうしてだろう…
紅すら引かず、まだあどけなさを色濃く残す智翔に、壮絶なまでの色香を感じてしまうのは…
そう、まるであの時の…
父様の望むように赤い紅で唇を飾り、父様に望まれるがままに真っ赤なドレスを纏った、幼い智子を目にした時のような…
胸が沸き立つような感情を、僕は智翔に感じていた。