第13章 特別編「偏愛…」
「なあ、智子? 僕はどうしたら良い?」
智翔の父親としては、娘である智翔の気持ちを思い計ってやりたいし、智翔の腹に宿った命だって大切にしてやりたい。
でも男としての僕はと言うと…
そんな単純な理屈では抑えられない程、腹の底が煮えくり返っている。
それでもこうして冷静を装っていられるのは、智子の仏前だから…なんだろうか…
「智子…、君ならどうしたんだろうか…」
同じ“性”を持たない身体に産まれた智翔の妊娠を、君なら素直に喜び、祝ってやれたんだろうか?
きっとそうなんだろうな…
智子は、智翔の身体に女性の身体には有るまじき物を見つけた時、智翔を自分と同じ“性”を持たない身体に産んでしまったことを、それは酷く悔いて、まだ自分の名さえも言えない智翔を抱いては、何度も詫びた。
当時の智子は、傍て見ていることさえ辛くなる程、痛々しかった。
表面上では僕に心配させまいと笑顔を浮かべてはいたが、夜布団に入れば毎夜のように涙を流し、咽び泣いていた。
そんな智子だから、智翔が普通の“女性”としての喜びを得られたことをきっと喜ぶだろう。
でも僕は…
「駄目だ…、こんな感情は持つべきではない…」
どうにも出来ない渦巻く感情をどうにかしたくて、僕は智子の遺影を胸に強く抱いた。