第13章 特別編「偏愛…」
頭が…酷く混乱していた。
智翔が女学校を辞めたこともそうだし、その理由が智翔の妊娠だったことも…
そしてその相手が潤だったことも…
ほんの数分の間に起きた出来事なのに、随分と長い時間を掛けて起きた出来事のような気がして…
「お父さん、話を聞いて欲しいの…」
智翔が唯一残された僕の腕を掴むけど、智翔の話を聞く気にも、顔を見ることすら今は出来ず、
「済まない…、今日はとてもそんな気分になれそうもない」
「でも私…」
尚も食い下がろうとする智翔の腕を乱暴に振り解いた。
「とにかく…、その話は後だ。長旅の後で疲れただろうから、部屋で休みなさい」
一切智翔を振り返ることなく、聡子の仏前に胡座をかくと、短くなった蝋燭に火を灯した。
その背後で、静かに襖が閉まるのが分かった。
僕は、遺影代わりにと置いた写真を手に取った。
生前、どうしてもと智子に強請られ、半ば強制的に写真館で撮った写真だ。
後から分かったことだが、結婚式すら挙げられなかったのだから、せめて写真だけでも残したいという智子の思いがあっての事だった。
智子が亡くなってから、写真館の店主にその話を聞かされた僕は、無頓着で鈍感な自分の性格を酷く恨んだんだってけ…