第13章 特別編「偏愛…」
益々混乱を来す頭を抱え、のろのろと潤の上から降りた僕は、足元をふらつかせながら縁側に向かった。
もうまともに立っていることすら出来なかった。
「二宮、済まないが、今日はもう帰ってくれ…」
顔を見ることなく言うと、二宮は「分かった」とだけ答え、四肢を投げ出したまま地面に寝転がる潤の腕を掴み、引き起こした。
「済まなかった…。責任は取るから…」
「責任か…」
頭が膝に着く程に身体を折り曲げ、謝罪の言葉を繰り返す潤に、沸々とした怒りが込み上げてくる。
「笑わせるな…。お前の顔など二度と見たくない。この先智翔に会うことも許さない。もし僕に隠れて会っていることが分かったら、その時は…」
僕のこの手で潤を殺す。
「お父さん…、酷いわ…。潤おじ様は何も悪くないのに…」
「ああ、そうだ。確かに潤は悪くない。悪いのは智翔、お前の方だ。だがな、智翔…」
いくら智翔が願ったからといって…
いくら智翔が智子の生き写しだからといって…
「拒むことは出来た筈だ」
自分の欲求に任せ、智翔を穢した潤の罪は重い。
僕は智翔を縁側に引き上げると、座敷と縁側とを仕切る襖をぴしゃりと閉めた。
外気が流れ込むのを塞ぐように締め切った部屋は、智子が好きだった百合の濃い香りで満ちていた。