第13章 特別編「偏愛…」
潤はかつて智子のことを心の底から愛していた。
口にこそ出さなかったが、その気持ちは今でも変わってないと、僕は信じていた。
その潤がどうして智翔と…
いや、理由は簡単だ。
潤は智翔を智子の身代わりにしたんだ。
そうでなかったこんなことが起きる筈がない。
「こいつ、よくも…、この…恥知らずが…っ!」
僕は頭を垂れ続ける潤に飛びかかった。
予期していなかったんだろう…、地面に仰向けに転がった潤に馬乗りになり、拳を振り上げた。
でも、
「お父さん止めて! 潤おじ様は何も悪くないの。潤おじ様は私の頼みを聞いて下さっただけなの」
拳が潤の頬を掠めようとした瞬間、智翔の小さな手が僕の手を止めた。
「どういう…ことだ…」
智翔が潤を誘った、と…?
「お父さんなら分かる筈よ? 愛される資格を持たない…、こんな身体に生まれてしまった私の気持ちが…」
どれだけ苦しいことか、と…
智翔の頬を、いくつも流れては地面を濡らす大粒の涙が、僕に訴えかけた。
「で、でもだからって…」
何も潤でなくたって良かった筈だ。
一度は一人の人を巡り、激しい恋の火花を散らした恋敵とも言える潤を選ぶ必要はなかった筈だ。
なのに何故…