第13章 特別編「偏愛…」
二人は一瞬顔を見合わせ、まるで示し合わせたかのように長く息を吐き出した。
「実は智翔は…」
口を開いてたのは潤だった。
「智翔が…どうしたと…?」
「どうやら女学校を辞めてしまったらしいんだよ」
「え?」
思いも寄らない…いや、あの大量の荷物を見た時から、もしかしたらと想像はしていたことだった。
ただ、それは予想であって、まさか現実になるとは…、思ってもいなかった。
「どうして…」
智翔には幼い頃から、看護の道に進みたいという夢があった。
勿論、物心もつかない内から潤の仕事を、すぐ間近で見てきたこともあってのことだろうけど…
その夢を簡単に手放してしまうなんて…、智翔に一体何があったと言うんだ。
僕は信じられない気持ちで頭を抱えた。
すると、それまで口を閉ざしていた二宮が、虚しく風に揺らされる僕の片袖を掴んだ。
「お前のためだよ、櫻井…」
「僕…の…?」
「智子さんを亡くして、一人になってしまったお前を案じて智翔は女学校を辞めたんだ」
そんな…
僕のことを思って、あれ程大事にしていた夢を捨ててしまうなんて…、なんてことあってはいけたいことなのに…
それに、智翔が潤の元で働くことを、智子が楽しみにしていたことだって知っていた筈なのに…
なのに何故…