第13章 特別編「偏愛…」
「済まなかったね、智翔のことを任せてしまって…」
本当は父親である僕がしなくてはならないことなのに、何分この身体では自動車の運転はおろか、力仕事だってろくに出来ない自分が情けなくなってくる。
「なあに構わんよ。櫻井の娘なら、俺にとっても娘と同じだからな」
「そう言ってくれると助かるよ」
事実、他に頼れる身内などない僕にとって、二宮の存在は大きい。
「ところで、随分と荷物が多いようだけど…」
たまの帰省であればトランク一つや二つで事足りる筈なのに、 玄関先に運び込まれた箱の数は、優にその数を超えている。
「ああ、それなら…」
しきりに首を傾げる僕の前で、潤と二宮が顔を見合わせる。
その様子を見ていて、僕には言えない…若しくは、言い難い事情があることは容易に推察出来たが、僕はそれを二人に問い詰めるでもなく、運び込まれた箱の蓋を開けた。
「これは…一体どうしたって言うんだ…」
箱の中には、智翔の洋服や着物…いや、それだけじゃあない、身の回りの物がぎっしりと詰め込まれていて、翌々見てみると、高等女学校で使うと思われる教本の類まで入っている。
「おい、これは一体…」
僕は思わず二宮に詰め寄った。
智翔は二宮の所に下宿していたのだから、二宮ならはこの数個はある箱の理由を知っていると踏んだからだ。