第13章 特別編「偏愛…」
床の間の横にひっそりと設えた小さな祭壇を前に、智翔が一瞬足を止め、背中を向けているから分からないが、小さな肩が揺れているから、おそらくは泣いているんだろう、鼻を一つ啜った。
そして座布団まで辿り着くことが出来ないまま、その場に膝を着くと、両手で顔を覆った。
「どうして…、どうして智翔が戻るまで待っていて下さらなかったの? 智翔、お母さんに話したいことが沢山あったのに…、どうして…」
とうとう泣き崩れてしまった智翔を少し離れた所から見ながら、僕は智子にも、そして智翔にも申し訳ない気持ちで一杯だった。
たとえ言葉を交わすことがままならなくとも、せめて…せめて死に目にでも会わせてやれていたら…
智翔の将来を案じたまま、智子を旅立たせずに済んだのに…
もしかしたら智翔をこれ程までに泣かせることはなかったのかもしれないのに…
もし、もしもあの時僕が…
馬鹿だな、僕は…
今更何を言ったところで、今となっては全て後悔でしかないのに…
畳に突っ伏し、嗚咽する智翔を一人部屋に残し、開け放った縁側から庭に降りた僕は、自動車の荷台から下した荷物を、大きさの割には随分楽々と玄関先へと運ぶ、潤と二宮に声をかけた。