• テキストサイズ

愛玩人形【気象系BL】

第13章 特別編「偏愛…」


生まれ育った家を、まるで他人の家に出も来たかのように目線を泳がせる智翔に、

「お母さんはこっちだよ」

腕を回した肩を引き寄せ、促してやる。

「ここに、…お母さんが…?」

閉ざされた襖を前に、智翔の目が再び潤み始める。

「そうだよ? ほら、お母さんが智翔の帰りをうんと首を長くして待っているよ?」

肩に回した腕を解き、今度は指ではなく手拭いで涙を拭ってやる。

「そうね、早くお母さんに智翔の顔を見せて上げなくちゃね?」

智翔は泣き顔に無理矢理笑顔を作ると、静かに目の前の襖を引いた。

瞬間、線香の匂いを嫌った智子のためにと、代わりに供えた智子が好きだった百合の甘く、濃厚な…それでいて強い芳香が一気に溢れ出し、僕は一瞬眩暈のような感覚を覚えた。

僕は百合の香りがあまり好きではなかった。

非業の死を遂げた母様のことを思い出し、胸が締め付けられるように苦しくなるから…

でも智子は違った。

智子は百合の花がそれはそれは好きで、春先から夏にかけて庭に咲く百合を摘んでは、家のあちらこちらに飾っていた。

そうすることで、智子は亡くなった母様の腕の中にいるようん、そんな感慨に浸っていたのかもしれない。
/ 263ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp