第13章 特別編「偏愛…」
僕と智子が愛の結晶でもある愛しい娘が…、智翔が何年かぶりに帰って来る。
そう思ったら、居てもたってもいられなくなった。
こうしてはいられない…
僕はすぐさま納戸から掃除道具を持ち出し、家中の掃除を始めた。
尤も、潤の母親尋ねてきては、その度に掃除から洗濯に至るまで、家事の殆どを済ませて行ってくれるから、それ程散らかってるわけでも、汚れているわけでもなかったが…
それでもそうせずにいられなかったのは、父親として…男として、智翔にみっともない姿は見せたくなかったからだ。
娘の…智翔の前では、いつだって立派な人間でいたいと、智翔がこの世に生を受けた時からずっと思っていたことだし、この先どんな環境に身を置こうとも、変えるつもりはない。
僕は一通り家中の掃除を済ませると、今度は庭の草取りに精を出した。
智子が病に伏せってからというもの、一切の手入れを怠ってきたせいか、猫の額ほどしかない狭い庭は草が生い茂り、見るも無残な姿に変わり果てていた。
智子が元気だった頃は、二人して不慣れにも農家の真似事をしては、不格好ながらも育てた野菜の収穫に一喜一憂し、採れたての野菜の味に舌鼓を打っていたのに…
それも今となっては、遠い昔のことのようにすら思える。
僕は庭の手入れをしながら、愛する人の死と言うものは、これ程までに人も、そしてその人を取り巻く環境すらも変えてしまうものなのかと、人知れず溜息を零した。