第13章 特別編「偏愛…」
智翔が帰って来る…
そのことは、生きていても半ば死んだのと変わらない状態だった僕にとって、朗報ではあったし、そのおかげ再び生きる活力を得られたのも確かだった。
だがしかし、僕にはどうしても頭を悩ませずにはいられない事情があった。
僕は智翔に、智子が亡くなったことを知らせていなかった。
智子が亡くなる丁度一週間程前だっただろうか…
智翔の下宿先が二宮の母親の経営するカフェーの上であったことから、智翔の様子は常に二宮から知らせを受けていて、たまたま受け取った電報に、試験の日が近いことが記されていたからだ。
その頃には、潤からはもっても数日だと告げられていたし、僕自身もある程度の心の準備というか、覚悟のようなものはしていた。
ただ智翔は違う。
智翔は智子が回復するものと信じていたし、僕も智翔を不安にさせないよう、電報を打つ際には、智子の病状に触れることはしてこなかった。
だからそんな智翔が智子の死を知ったら…
それこそ試験どころではなくなってしまう…と、そう思った僕は迷った末に、二宮には申し訳ないが、智翔の試験が終わってから智子の死を智翔に知らせてくれるよう頼み込んだ。
僕は逃げたんだ。
本当は父親の僕の口から告げるべきことなのに、ただ智翔の泣き崩れる姿を見たくないがために、二宮に責任の全てを押し付けるなんて…
僕はなんて狡い男なんだ。