第12章 追葬…
「日が暮れる前に墓参を済ませてしまおうか」
僕は胸の中に芽生えた感情を押し鎮めるように、智子の手を強く握った。
「そうね、きっと母さまも待ってらっしゃるわ」
智子が僕を見上げ、柔らかな微笑み(えみ)を浮かべる。
その顔は、父様もここに眠っていることすら忘れてしまっているような、とても晴れやかな笑顔だった。
なのに僕は、どうしてだか智子の顔を真っ直ぐ見ることが出来ず、智子の手を引くと、足早に境内を抜け、本堂の裏手にある墓地へと急いだ。
幼い頃の記憶を辿りながら、僕は櫻井家の墓標を目指す。
幾つもの墓石の間を抜け、やがて見えてきた一際大きな墓石の前に立った瞬間、僕の背中がぶるりと震えた。
「智翔、おばあさまにご挨拶なさい?」
智子が智翔の背中を押す。
智翔は墓石の前で膝を折り、恐らく道端で咲いていた花だろう、小さな野菊を墓前に手向けると、小さな両手を合わせた。
僕達もそれに習って手を合わせる。
とは言っても、僕には合わせる手などないのだけれど…
一頻り黙祷を捧げた後、ふと隣の智子に視線を向けると、閉じた瞼の端から、一粒の涙が零れ落ちた。
智子は一体何を思っているのだろう…
智翔の顔を見ることなく旅立った母様のことだろうか…
それとも、無垢な智子の心を、その穢らしい手で穢した父様のことだろうか…
だとしたら僕は…
いや、考えるのはよそう…
「さあ、そろそろ行こうか…」
「えーっ、もう? 智翔疲れちゃった…」
あれだけ元気に駆け回っていた智翔が、珍しく我儘を言って、僕の左腕に両手を絡めた。
その瞬間、心臓がまるで早鐘のように鼓動し、耳の奥で警鐘が鳴り響いた。