第12章 追葬…
住職は暫く考えてから急須に残っていたお茶を、僕の空になった湯呑みに注いだ。
「あれは確か…そう、あの日はまだ十一月だと言うのに小雪がちら付いていましてね…」
昔を懐かしむような、遠い目をして住職は言葉を続けた。
「その最中(さなか)、そこの山門を潜って来たのが、当時はまだ若かった照と、大きな腹を抱えたご婦人で…」
「それが母様…だと…?」
言葉尻を遮った僕に、住職が大きく頷く。
「それで母様はどうしてここに…?」
まだ年若い僕でさえ膝が笑う程だ、身重の身体には、あの石階段はさぞ堪えただろうに…
「腹の子を産むために…ですよ」
「えっ…?」
「お屋敷では産めないご事情があったんでしょうな…」
そりゃそうだ…
まさか父様が差し向けた暴漢に襲われた挙句、子を宿したなんてことが知れれば…それこそ櫻井家の家名に傷が付きかねない。
それにその当時は、まさか父様が裏で画策していたなんてこと、当然母様は知らなかっただろうし…
母様は、どんな思いでこの山門を潜ったのだろう…
その時の心境を思うと、胸が苦しくなる。
「お母様は出産までの時をこの寺で過ごし、そうして智子さん、貴女がお産まれになった」
「智子が…? 智子はここで生まれたの?」
「ええ、そうですよ? それから丁度五つになる頃まで、ここで暮らしていたんですよ? ご記憶ではなかったかな?」
「いいえ…、智子何も覚えてないわ…」
五つでは覚えていないのも無理はないか、と言って住職はまた遠い目をした。