第12章 追葬…
「中でお茶でもどうですか?」
「え、ええ、じゃあお言葉に甘えて…」
本当は先に墓前に挨拶をしたかったが、僕はそれを諦め住職の誘いを受けることにした。
智子が一体いつここを訪ねたのか、それを確かめたかった。
智子が僕の妹として屋敷にやって来る以前のことならともかく、僕の記憶では、智子は家に来てから一歩たりとも屋敷の外に出たことはない。
なのに住職は智子を知っていると言った。
僕は思いがけず自分の中に芽生えた疑念を払拭するべく、住職の後に着いて本堂へと入った。
「あの、一つお聞きしても?」
僕は出されたお茶を一息に飲み干すと、住職に向かって切り出した。
「住職は先程智子のことをご存知だと仰いましたが、僕の知りうる限り、智子がこの寺を訪ねたことは一度もないような気がするんですが…。そうだろ、智子?」
両手で湯吞を包むようにして、智子が首を傾げる。
僕に記憶がないのだから、それよりも幼い智子が覚えている筈がない。
「無理もありません。私が知っている智子さんは、まだ産まれたばかりの赤ん坊でしたから」
「それは、一体…」
確かに僕が知っている智子は五歳の時からで、それ以前のことなんて、僕は知らない。
当然智子だって訝しげに首を傾げることしか出来なくて…
「差し支えなければ教えて頂けませんか…?」
僕は空になった湯吞を茶托に置いて、姿勢を正した。