第12章 追葬…
やがて僕らを乗せた汽車は、懐かしさの残る町へと入った。
「そろそろ智翔を起こさないと…」
先に起きていた智子が智翔の肩を揺する。
「ん…、もう着いたの?」
余程ぐっすりと眠っていたのか、智翔が瞼を擦りながら伸びをした。
智子が直してやった髪は、あちこちにしっかりと寝癖が着いている。
「駅に着く前に直さなきゃ…」
智子が智翔の隣に移動して、智翔の髪を結わえた布紐を解く。
「智翔もお母さんみたいな髪が良かったな…」
つんと伸びた毛先を見て、智翔が口を尖らせる。
「あらどうして?」
「だってお母さんの髪、とっても綺麗な栗色だし、ふわふわしてて柔らかくて、お人形さんみたいなんですもの」
人形…
その言葉に智子の表情が曇る。
きっと智子の脳裏を、あの忌々しい程の光景が過ぎっているんだと思った僕は、咄嗟に智翔の髪に手を伸ばすと、真っ直ぐに伸びた黒く艶やかな髪を指で梳いた。
「智翔はこの髪が嫌いなのかい?」
「そうじゃないわ…。でも…」
幼いが故の憧れ…と言った所なのだろうか…
「お父さんは智翔の髪、好きだな。智翔の凛とした顔立ちにとても良く似合っていると思うよ?」
「そうかしら?」
それでもどこか不満げな顔の智翔に頷いて見せると、智翔が少しはにかんだように笑って、手に持っていた布紐を智子に差し出した。
「お母さんが西洋のお人形さんなら、智翔はきっと日本人形ってことね?」
「ええ、そう…ね…」
浮かない表情のまま布紐を受け取り、智子は小さく震え出した手で智翔の髪を結わえた。