第12章 追葬…
初めての汽車にはしゃぎ過ぎたのか、昼を少し過ぎた頃になって智翔が一つ小さな欠伸をした。
朝も早かったし、弁当も食べて腹も膨れれば当然のことだ。
「まだまだ先は長い。少し眠るといいよ」
「うん…、そうするわ…。あ、着いたら起こしてちょうだいね? 約束よ?」
二人乗りの座席に身体を丸め、僕に向かって小指を差し出す。
僕はそこに自分の小指を絡めると、指きりをしてから、着ていた上着を脱いで智翔の肩に掛けた。
すると汽車の揺れが心地よかったのか、智翔は数秒も経たずに寝息を立て始めた。
「ふふ、可愛い寝顔ね? 兄さまもそう思わない?」
「そうだね、智子に似てとても可愛いよ」
「まあ、兄さまったら…」
顔を赤らめる智子の肩を抱き寄せ、微かに尖らせた唇に自分のそれを重ねる。
「智子も少し眠るといいよ。疲れたろ?」
「ええ、そうするわ」
智子がこつんと僕の肩に頭を乗せると、髪の先から甘い香りがふんわりと香って、僕の鼻先を擽った。
頭の芯まで蕩けてしまいそうな芳醇な香りに、胸の奥が熱くなる。
「兄…さま…、智子の手を握っていてくださらない? そうしたら智子、きっと眠れるわ…」
今にも閉じてしまいそうな瞼を擦り、僕を見上げる。
僕はその額に口付け、膝の上に乗せられた小さな手を握った。
「ずっとこうしていてあげるから、安心しておやすみ?」
こくり、と頷いて智子が瞼を伏せる。
そして僕も…
智子の寝息を首筋に感じながら、俄かに重たくなった瞼を閉じた。