第12章 追葬…
「今度の日曜、智翔も連れて行ってみないか?」
日曜なら、僕が非常勤として勤務している学校も丁度休みになる。
「母様にも智翔を見せてあげたいし…」
僕達が町を出て随分経ってから…だろうか、照が元々あった櫻井家の墓地に母様の遺品を埋葬した、という話は二宮からの手紙で知っていたが、中々きっかけが掴めずにいた。
「母さま…に…?」
「うん、母様は智翔が産まれるのを、それは楽しみにしていらしただろう? だから一度母様に智翔を会わせてやりたくてね…。嫌かい?」
「嫌なんかじゃないわ…。ただ…智子怖いの…」
智子の細い両腕が僕の腰に巻き付き、そっと僕の胸に頬を埋めた。
智子が不安に思うのも無理はない。
櫻井家の墓地には、当然のことながら父様も眠っているのだから…
「智翔はとっても可愛いわ…。それにとっても美しい娘よ? もし智翔が父さまに…って考えたら、智子怖くて…」
もう父様はこの世の物ではない、そんなことありはしない…、そう言って僕は智子の背中を摩ったが、それでも智子の不安は消え失せることはなかった。
さてどうしたものか…
考えあぐねていた丁度その時、
「あら、お母さんたらまたお父さんに甘えて…。狡いわ…」
母屋で風呂を済ませた智翔が、濡れた髪から雫を滴らせながら僕の背中に抱きついてきた。
「こら、智翔…重たいよ」
僕の鼻先を、智子とよく似た甘い香りが掠める。
瞬間、僕は腹の底で熱い物がぐつぐつと音を立て始めたのを感じた。
いけない…、こんな感情は間違っている。
「さあ、二人共どいてくれないかい? 明日の支度をしなくてはいけないからね」
僕は咄嗟に思い付いた噓で言い訳をした。