第11章 信愛…
その晩、迷った挙句僕は智翔を潤の母親に預かって貰うことにした。
智子は嫌がったが、僕はどうしても智子と二人きりの夜を過ごしたかった。
月明かりだけの部屋で、布団の中まで智翔の産着を引き込み胸に抱く智子を背中から抱き締める。
「智子、お願いだからこっちを見ておくれ?」
智翔を預けたことを怒っているのか、智子は僕の願いに応えず、それどころか鼻をスンと鳴らすと、小さな背中を震わせた。
「兄さまは智翔がいなくて寂しくないの? 智子は寂しくて寂しくて堪らないわ…」
智翔と片時も離れていたくないんだ、と言って智子は声を震わせた。
「僕だって寂しいよ? でもね、智子? 昼間智子は言ったよね? 僕が智翔ばかり可愛がってる、って…」
智子が僕の腕の中で小さく頷く。
「僕も同じだよ? 智子があんまり智翔のことばかり可愛がるから、僕も…」
そうだ、僕は智翔に嫉妬していたんだ。
智子の愛情を小さな身体に一身に受け、無垢な笑みを浮かべる智翔に、僕は…
「兄…さま…も?」
「そうだよ? だから顔を見せてくれないか?」
こくりと頷いて、智子が僕の腕の中でゆっくりと身体の向きを変える。
「好きよ、兄さま…。大好き…」
そして月明りでも分かる涙に濡れた瞼をそっと伏せた。
瞬間、僕の心臓が大きく跳ねあがる。
ああ、なんていじらしい…
「僕もだよ、智子。君が…」
僕は背中に回した腕で智子の頬を包むと、赤く熟れた果実のような唇に口付けた。