第11章 信愛…
眠りから覚めた智子は、薄らと開いた視界に赤ん坊の姿を見つけると、小さな手を伸ばして、自分よりも更に小さな手に触れた。
「兄さま、これが赤ちゃんなの?」
「そうだよ? この子が、智子のお腹の中にずっといたんだよ?」
「とっても小さいのね? それになんだかお猿さんみたいだわ?」
初めて目にする小さな命に、智子はしきりに首を傾げて見せた。
「そうかな…、僕にはとても可愛らしい女の子に見えるけど?」
心なしか垂れた目尻も、ふっくらとした頬も、すっと通った鼻筋だって、どこを取っても智子によく似て、とても愛らしい。
「そう…、女の子なのね…」
そう小さく呟いたきり、智子が赤ん坊から顔を背ける。
そして疲弊しきった身体を無理矢理起こすと、
「赤ちゃんは女の子…なのよね? ねぇ、智子と同じ? 智子みたいに、女の子でも男の子でもない身体なの? どうなの、兄さま」
僕の腕を掴んで乱暴に揺すった。
「落ち着いて、智子?」
「だって兄さま、もし赤ちゃんが智子と同じだったらって考ると、智子の怖いの…」
怖いのは智子だけじゃない…僕だって同じだ。
産湯に浸かっている赤ん坊の姿すら、直視できなかったんだから…
例え智子が危惧していたことが現実に起ころうとも、僕はそれを受け入れようと…
あんなに強く決心したのに…
僕はなんて情けない父親なんだろう…
「いいから落ち着くんだ」
「でも…」
尚も食い下がろうとする智子を宥め、僕は赤ん坊を包んだ綿入れを捲り、潤の母親が着せてくれた産着を剥ぎ取った。