第11章 信愛…
「おい、翔君…、しっかりしないか…」
潤に肩を揺すられ、僕ははっと我に返った。
そしていつの間にか離れてしまった智子の手を取ると、手の甲に頬を擦り付けた。
「智子、良く頑張ったね?」
全ての力を出し切り気を失ってしまった智子の頬に口付けた。
「さあ、抱いてお上げなさい?」
潤の母親が僕に向かって綿入れに包まれた小さな赤ん坊を差し出す。
でも僕には赤ん坊を抱くための腕が、一つしかない…
「あの…、僕には無理です…」
本当は思い切り抱き締めたい。
小さな指にだって触れたいし、智子に良く似たふくよかな頬に頬擦りだってしたい。
でもそれは、片端になってしまった僕には不可能なこと諦めていた。
すると潤の母親が僕に胡座をかくよう言った。
僕は意味も分からず、言われた通りに胡座をかいて座ると、その上に片手でも足りる程小さな赤ん坊が乗せられた。
「智子ちゃんに良く似て、とても愛らしいお嬢ちゃまよ?」
女の子…なんだ…
そう聞いた瞬間、僕は智子の言葉を思い出し、思わず吹き出してしまった。
「智子の言った通りだ、とっても可愛い女の子だ…」
僕は膝の上でもぞもぞと動く赤ん坊の頬に、そっと指を触れてみる。
「柔らかいな…」
それに、なんて暖かいんだ…
僕は気持ち良さげに寝息を立て始めた智子の髪を撫でると、耳元に唇を寄せ、
「ありがとう…」
と一言囁いた。