第11章 信愛…
「さあ、ちょっと失礼するよ?」
潤が智子の両足を開き、
「これ…は…」
一瞬息を飲んだ。
そりゃそうだ…
僕だって初めて目にした時は、思わず我が目を疑ったのだから…
「ほう…、これはまたなんと…」
研修医とはいえ医療に携わる潤と、そして長年医療に従事してきた潤の父親が、二人して智子の足の間を覗き込む。
決して好奇心などではないと分かっている。
そうせざるを得ないことだって十分に理解はしている。
でも…出来ることなら誰の目にも触れさせたくはなかった。
そゆな僕の意を察したのか、潤が少々厳しい目を向けた。
医師として、なのだろうけど…
「翔君、済まないが主屋へ行って、湯を桶に汲んで来てくれないか?」
「僕が…ですか?」
「そうだ、君に頼んでいるんだ」
「でも智子が…」
今僕がこの場を離れてしまったら、智子はきっと不安になる。
それに僕だって、この握った手を離したくはない。
「智子ちゃんのことなら私が着いてますから心配ないわ。だから、ね?」
僕の気持ちを察したのか、潤の母親がそっと僕と智子の間に割って入った。
「早くしないと、赤ちゃんが産まれた時、産湯に疲つかれないと可愛そうですよ?」
それでも智子の傍を離れずにいられない僕を、潤の母親は優しく制した。
「はい…」
僕は仕方なく智子の手を離すと、名残惜しそうに何度も振り返りながら、離れを出た。