第11章 信愛…
離れに駆け戻った僕は、真っ赤な顔をしてふーふーと息を繰り返す智子の手を握った。
「すぐに先生が来てくださるからね?」
「じゅ…先…生が…?」
「そうだよ、潤先生が来てくれるからね?」
玉のような汗を流し、智子が頷く。
僕はその汗をどうにか拭ってやりたくて…
額に張り付いた髪を掬ってやりたくて…
でも僕にはその術がない。
仕方のないこととは言え、失くした右腕が口惜しい…
僕は枕元にあった手拭いを口に咥えると、それで智子の額の汗を拭った。
ごめん、智子…
こんなことしかしてやれなくて…
こんなにも智子が苦しんでいるのに僕は…
自分の腑甲斐無さに腹が立つ。
その時、開け放ったままの土間から、大きな鞄を抱えた潤と、潤の両親が飛び込んで来た。
「こんな時間にすみません…」
僕は三人に向かって頭を下げた。
すると潤の父親は僕の肩に手を置き、
「お産と言うのはな、いつ起こるものかは誰にも分からん事だ。なあに、詫びることはないさ」
「そうよ、気にすることはありませんよ」
人の良さそうな笑顔を僕に向けた。
僕はこの人達に苦しみしか与えることが出来なかったのに…
僕は胸が詰まる思いだった。
でも今泣くわけにはいかないと思って、零れ落ちそうになる涙を必死で堪えた。
僕が不安そうな顔をすれば、きっと智子はもっと不安になる。
心も…そして身体もまだ幼い智子を、これ以上不安にさせるわけにはいかない。
僕がしっかりしないと…