第11章 信愛…
僕は一瞬何が起きているのか分からず、ただ智子の手を強く握った。
「痛い…、痛いわ、兄さま…っ…」
握った僕の手を、更に強い力で智子の手が握り返してくる。
その時になって僕は漸く、陣痛が始まったんだということに気が付いた。
「い、今すぐに先生を呼んでくるから…っ…!」
「いや…、智子の傍を離れてはいやっ…」
智子の手を振り解き、立ち上がろうとした僕の浴衣の裾を、智子の手がものすごい力で掴む。
「で、でも…っ…」
「智子怖いの…。もし…、もし、赤ちゃんが智子と同じだったっら…、智子怖いっ!」
強烈な痛みに顔を歪ませ、荒い息を吐きながら智子が涙を流す。
それは僕だって考えなかったわけじゃない。
もし産まれて来る子が、もし智子と同じように、男とも女とも区別の付かないような身体だったらどうしよう、って…
僕だってずっとそのことが気がかりだった。
でもある時から思ったんだ。
産まれて来る子が、例え智子と同じだったとしても、それを受け入れようと…
だってどんな子であったとしても、僕と智子の子に違いはないのだから…
「いいかい智子、良くお聞き? 智子が不安になる気持ちは、僕にも良く分かる。僕だって不安だ。でもね、もし仮にそうであったとしても、僕達二人なら大丈夫」
「兄…さま…」
「安心おし? 僕はいつだって智子と一緒だから。ね?」
大粒の汗をにじませ、うんうんと頷く智子に口付け、僕は浴衣の裾を掴んだ智子の手をそっと解いた。