第11章 信愛…
潤の両親は、僕達をそれは手厚く迎え入れてくれた。
僕達のために離に部屋を用意してくれて、智子がいつ産気づいても良いように、準備だってしてくれた。
僕はそれが、嬉しい反面、申し訳なくも感じた。
もし智子が僕の子を孕んでいなければ、もしかしたら潤と智子は…
そう思うと、僕は潤の両親の親切を素直に受けることが出来なかった。
だから、智子が無邪気に甘える度、僕は心の中で何度も潤の両親に詫びた。
本当なら、智子のお腹の中の子は、本当の孫だった筈なのに…
それを考えると、心苦しさしかなかった。
「兄さま、見て? おばさまが赤ちゃんのために編んで下さったのよ」
並んで縁側に座り、湯上りの火照った顔を綻ばせる智子の手には、小さな小さな手袋が握られている。
「へぇ、小さいね…」
智子の小さな手よりも更に小さな手袋を手に取り、僕の手の大きさと比べてみると、その小ささに思わず笑いが込み上げてくる。
「ねぇ、兄さま? 赤ちゃんて、本当にこんなに小さいのかしら?」
大きくなった腹を見下ろし、智子が不思議そうに首を傾げる。
そうか、智子は知らないから…
屋敷から出たこともなければ、産まれたての赤ん坊を目にしたことだってないんだから…
「そうだね…、不思議だね…」
こんな小さな命を、僕達は守っていけるのだろうか…
僕は不安で仕方がなかった。
でもそれ以上にきっと智子は…
僕はたった一つ残った左腕を智子の肩に回すと、そっと抱き寄せ、薄く開いた花弁のような唇に口付けた。
その晩、漸く深い眠りに就こうとしていた僕を、痛みに泣き喚く智子の声が叩き起こした。