第11章 信愛…
辺りが茜色に染まりかけた頃、僕達は漸く潤の生家に着いた。
予定よりも随分到着の遅くなったのを案じてか、潤の両親は玄関と門との間を何度も往復していた。
「長旅でお疲れだろう…。こっちへ来て一休みするといい」
「まあまあ、智子ちゃん、身体はきつくない?」
潤の両親は僕達を暖かく出迎えてくれた。
「ええ、大丈夫よ? それよりおばさま、智子とってもお腹が空いたわ」
「こ、こら、智子…」
挨拶もろくに済まさない内から空腹を訴える智子に、僕は内心焦りを感じてしまう。
数ヵ月前まで、何不自由なく暮らしてきたのだから、仕方のないことなんだろうけど、無邪気な我儘がいつまでもまかり通る筈なんてないから…
でも潤の両親は智子を一切咎めることなく、
「そうかいそうかい、じゃあすぐに夕飯にしましょうね」
人の良さそうな笑顔を浮かべて、智子を家の中へと招き入れた。
「すみません、失礼をしてしまって…」
僕は潤に智子の非礼を詫びた。
「気にすることはないよ。これまで年寄り二人きりで暮らしてきたからね。君たちが来てくれたことが嬉しいんだよ」
潤は僕の手から荷物を取り上げると、代わりに馬車の中に置き去りにされていた花束を渡して寄越した。
「あっ、智子ったら…」
「贈り物を忘れる程腹が減っていた、ってことだろ?」
「はあ…、何だか先が思いやられます…」
僕はがくりと肩を落とした。