第11章 信愛…
名もないような花を、智子は両手いっぱいに摘んだ。
その半分をブラウスの襟元を飾っていた細いリボンで束ね、花束を作った。
「その残った花はどうするんだい?」
ふと智子がネッカチーフに包んだ花が気になる。
「ふふ、お花の冠を作って赤ちゃんへの贈り物にするのよ?」
「花の冠って、まだ男か女かも分からないのに…」
「あら、智子には分かるもの。きっと兄さまに似た、可愛らしい女の子よ」
「僕に…?」
そうよ、と無邪気に笑って腹を摩る智子は、期待に目を輝かせていた。
さっきまであんなに不安そうにしていたのに…
「きっと期待と不安がないまぜになっているんだろうな…。親になるとは、そういうものなんじゃないか? 俺には分からんが」
言われてみれば、僕もそうなのかもしれない。
僕だって、父親になることに、不安がないわけじゃないし、期待だってしている。
でもやっぱり今は…不安の方が勝っているんだろうな…。
「さあ、そろそろ行こうか? この分だと家に着いた頃には日が暮れてしまう」
一足先に馬車に乗り込んだ潤が、地べたに座り込んで花を摘み続ける僕達を呼んだ。
「それは大変だ。さあ、行こうか?」
僕は智子の手を引くと、腰を支えて馬車に乗り込んだ。
智子の手には、色とりどりの花で作られた花束が、しっかりと抱えられている。
「喜んで貰えると良いね?」
僕が言うと、智子がこくりと頷く。
「智子が心を込めて作ったんだ。きっと…」
「そうね、おばさまもおじさまも、きっと喜んでくださるわね?」
愛おしそうに花に顔を埋める智子が、僕は愛おしくて…
僕は潤が見ている前だということも忘れて、その頬に口付けた。